オタクが声を張り上げる―アカシックを知ってくれ 歌詞編―
「ヨコハマ生まれ繁華街育ち」というキャッチコピーに圧縮しきれない人間性がつまった女性、それがボーカルであり作詞担当の理姫さん。
煙草と酔っ払いの匂いがする夜の街がとてもよく似合う、物憂げで気怠さを感じさせるルックス。
あれ?ここスナックでしたっけ?と誤解させるほど、瞬間的に空気を一転させる話し方。
かなり人を選ぶショッキングなピンク、デパコスで造り上げた「ケバい」メイク、折れそうなほど高くて華奢なヒール、展開にやきもきして眠れなくなる恋愛ドラマ、突然の海外旅行。彼女のSNSに現れる日常は、いつだって平成を自由に生き延びた「ギャル」あがりのアラサー女性らしいものばかり。
だけど根っからのピュアなaikoジャンキーだったり、村上春樹だって難なく読んじゃう文学少女だったり、ペットの柴犬に向けて母性全開のくしゃっとした笑顔を見せたり、ちゃんと手料理を作ることは言いふらしたくない恥じらいがあったり。いわゆる「ギャル」と紹介するのがどうにもしっくりこない。
そんな理姫さんから生まれ落ちる歌詞は、彼女の生き様にダイブしたと錯覚するような世界観。
愛の根深さ、生きることへの執着、成長して擦れてしまった価値観への寂しさ、いくつになったって変わらない女心、ありとあらゆる感情が散りばめられている。
例をいくつか挙げましょう。山ほど挙げたいんですが、キリがないので今回は少しだけ。
一生分の名前呼んで
脱いで汗まで離さないで
(「ブラック」/『エロティシズム』/アカシック/2017年10月18日発売)
THIS IS 女。
軽い約束のくせに「一生のお願い」なんて言う人とは比にならぬ「一生分」の重さ。ただの「呼んで」じゃダメ、どんな声の調子で、どんな表情で、どんなタイミングで、どれくらいの回数「呼んで」くれたのか、全部大事。
汗なんて、最早それは私の一部なのかそうじゃないのかよくわかんない。もう身体から分離しちゃってんじゃん!という存在。そんなところまで抱きしめるくらいじゃないと、納得できない。安心できない。それくらいの覚悟で愛してくれなきゃ許さない。汗だろうが吐息だろうが視線だろうが全部私なんで全部愛してください。そんでもって愛したならずっといてください。はい。そんな感情が拳になったような歌詞です。
鏡の右目に 歯ブラシぶっ刺して
関係をまだ愛したいという趣味の悪さに
(「さめざめ」/『DANGEROUS くノ一』)アカシック/2015年6月3日発売)
歯ブラシ自体はそこに二人の生活があったことを象徴するものとして歌詞に登場しやすいアイテム。しかし、目的を失ったそれを見てしまったときの未練に対する表現が「趣味の悪さ」とは、これまたとんでもない歌詞がきたよ。
どんな男だったのか。どんな別れ方だったのか。想像はつかないけど、良かったとは言えなさそう。それを自分が一番わかっているのに、自分が一番わからない。最も歯がゆくて、馬鹿馬鹿しくて、悲しい場面を鮮明に浮かび上がらせた描写。
そう、そうなの。そうそうそうなの、本当それなの。そうなのすごいの。聴きながら頷くことを止められないオートヘッドバンキング状態。聴けば聴くほど、自分の淀みの中に沈んでいた感情が、暴かれていく感覚に陥る。そんな歌詞のエレクトリカルパレード。
心を抉られる鋭利で繊細な感情描写だけでも感嘆しっぱなしなのに、さらに理姫さんは若年女性の話し言葉と文学を感じさせる抽象表現を足し算できる技術に長けている。
ケバさは強さじゃないの護って
迷わないこと 決めた明日は
付き纏う暗闇を殴って
退屈すらも守る姿勢で
(「裸-nude-」/『エロティシズム』/アカシック/2017年10月18日発売)
「ケバさ」ってところにある俗っぽさ。メイクに関する言葉ってたくさんあるけど、「ケバさ」は「ケバさ」じゃないと言えない感。厚化粧、じゃなんかちょっと違うんだ。
ここでは、仮面とか表面上の態度の意味合いで「ケバさ」が取り上げられているようだけど、そこから本心を大事にしたい気持ちが「退屈すらも守る姿勢」と表現されているのが凛としていて美しい。退屈って確かに良い。必要。必死だったり絶望していたりすると退屈どころじゃないし。
初めて聴いたとき、よくこのフレーズ連続させたなと驚いた。
空のブルーは永久ブルーで
不審なチャンスは薔薇の色
(中略)
次の日曜だって
あたしの彼氏でいて
(「サンディバージンディアボーイ」/『凛々フルーツ』/アカシック/2016年3月16日発売))
「不審なチャンス」ってどんなんだろう。真っ赤な色をしている好機、なのに「不審」。気になる。なんなのそれ。どういうことなの。っていうか「空のブルー」と対比してて綺麗。「永久ブルー」もスカっとする造語。
と、思わせといてものの数秒後の歌詞で「彼氏でいて」という変化球。しかも「次の日曜」って、すぐやん。(今日が何曜日か知らんけど)SNSのやりとりかよ。
ほんの少しの空白も待てないほどの恋愛の期待感と高揚感、そしていつの日曜まで彼氏でいてくれるんだろうかという、忍び寄る小さな不安。そんな恋愛初期の葛藤を全部詰め込んでおいて、仕上がりはちゃんと可愛く統一されている。まじかよ。
洗練された表現の合間に、会話しているのかと思わせるように自然に流れ出てくる言葉遣い。ギャップ、というように落差がスコーン!とあるというよりかは、違う色の糸で編んだ織物のように一体化しているイメージ。縦の糸は理姫、横の糸は理姫。最高かよ。
理姫さんの歌詞の世界では、ギャル由来のくだけた言い回しとか、抽象的な表現とか、そういうカテゴライズがなくて、あふれてくる語彙の海から、最も相応しい言葉を絶妙な感性で取捨選択しているように感じる。
こんな歌詞が、余すことなく敷き詰められた楽曲たち。陰も陽も描き出す色彩の豊かさがある。日常のとりとめもない一場面も、人生をかけた大恋愛も、ひっくるめて歌詞の対象にしてしまう。そんな印象です。
ちなみに、理姫さんが、アルバム『エロティシズム』をリリースする際、歌詞についてのインタビューでこんなことを答えています。
「今ある全部に影響された平成の28歳なら、こういう歌詞を書く」
理姫さんは、人生の中でインプットしてきた情報、衝撃を与えた出来事、抱えている感情、そのすべてを彼女なりの表現で吐き出すことのできる稀有な作詞家なんだと思います!
うぉぉぉぉ、かっちょええ!!好き!!超好き!!
このときのインタビューはこちらで見れます。ぜひ。
https://realsound.jp/2017/10/post-118662.html
続きは、演奏・メンバー編にて。
コンサバティブ
プリチー
DANGEROUSくノ一
凛々フルーツ
エロティシズム